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zoom RSS 三上和夫『教育の経済』(春風社)を読む4

<<   作成日時 : 2005/09/19 14:37   >>

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 次の節は「時間意識と自己決定」「時間意識と時間決定の自主性」という節は少々分かりにくい。
 個人(小さな物語)と国家や社会(大きな物語)、個々の物語の「棲み分け」(それは選択とこだわりでもある)があり、かつ世代間の「社会」の意味の相違がある。
 第二の節となると、千石保の「まじめからマジ」へという変化説を取り上げ、千石は青年に「身心と近傍空間を監視していゆく主体性を期待している」が、三上は自分くずしと自分づくりの動的過程を捉えていないと批判する。(人々は)「時間という尺度を持って、秩序と価値序列のある種の濃度を悟る」、そして、新旧のせめぎあいとして、教育意識や教育要求を捉えることができるとする。
 ここまでは「個人の自己決定」という要素はあまり書かれていない。むしろ、世代間の相違などは、社会的規定性の範疇となる。
 しかし、三上は諸個人の行為の自主性・自己決定は一旦受容されると安定するとし、また、大家族・徒弟制度→資本制社会→家事労働の分担という局面を経て、自由時間の自己処分意識が定着したという。ここまでがこの節の内容であるが、いくつかの重要な論点が出されている。本論ではないので、論点についての著者の考えは以下に出てくるだろうが、本論とは無関係に論点について考えてみたい。
 棲み分け社会として有名なのは、私が中心的に調べているオランダである。オランダでは、20世紀になって、もともとあった宗教的棲み分けがより強固になり、特に教育の自由と公立私立の平等な立場によって、「棲み分け」社会が出来上がったと言われている。1960年代からそれは崩れたが、イスラム社会との関係をどのようにつけるかという点で、再びオランダの棲み分け社会は注目されている面もある。日本においては、価値観の対立、あるいはかなりの相違をもった棲み分け社会はあるのだろうか。そうした棲み分けが「自己決定」でなされたというニュアンスで語られている。
 人々は例えば「郊外」の生活を自己決定したのだろうか。教育学者で東京で活動している人の世代を見ると、年代が若くなるに従って、郊外に住居をもっていることがわかる。これは他の分野でもそうではないかと考えられる。つまり、「土地代」の高騰によって、郊外に住居を持たざるをえなくなっていく世代の進展が如実に現れている。
 しかし、郊外になると「自由時間」の自己決定はそれだけ困難になる。今学生たちに、親は自由時間を利用して、スポーツなり芸術なり、なんでもいいから自分の趣味を定期的に行っているかを毎年聞いているが、そうした親は少ない。大学生の親はだいたい40代から50代に多いわけだが、もっとも働き盛りである。そして、今東京に仕事をもっているとすると、住んでいるのは多くが郊外である。そうして私の大学に入学するわけだ。
 では何故彼らは自由時間の自己決定が難しいのか。それは郊外に住んでいるから、通勤に時間を奪われるからである。スウェーデンでは、列車にインターネットに接続できる設備が整っており、会社と鉄道会社が契約している場合、列車にのって自分のパソコンをセットし、会社のネットに接続して仕事を始めると、それから勤務時間になる。スウェーデンは広い国土をもっているので、けっこう長時間の通勤者がいるのだそうだ。そういう人たちにとって、自由時間を生み出す便利なシステムになっている。もちろん、日本でこのようなことは、不可能だろう。通勤電車が空いているからできることだ。
 北欧の場合に顕著なのは都市のサイズをあまり大きくしないことだ。特にデンマークで顕著である。(ノルウェーの場合には、かなり限定された都市に人口の多数が住んでいるので考え方が多少異なるようた。)
 本当に自由時間の処理を自己決定できるためには、都市のサイズを制限する必要がある。ところが、日本では戦後一貫して都市サイズを大きくしてきた。3、4万の自治体など存在価値がないかのようである。そして北欧と日本とで際だって異なる面が教育についてある。教育は公的な費用で行う社会全体の事業であると意識するか、あるいは個人の費用で個人の利益を追求する事業であるかという意識の違いといってよい。もちろん、このように単純なものではないが、ある面、1990年代までは日本のような個人の競争に基づく教育意識が、高い学力を保障してきた。しかし、PISAの結果が表したものは、北欧の方が学力を高めるために効率的な制度を構築してきたという点である。地域、費用、自由時間というような軸は、確かに教育を分析する上で重要な概念である。

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