教育と社会を考える

アクセスカウンタ

zoom RSS オランダの社会と文化 日本と比較しながら (9)

<<   作成日時 : 2006/06/05 21:37   >>

かわいい ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0

オランダの医療システムとの関係

 3つの主な裁判を経て、また医師会や安楽死協会の支持を土台に、1994年の埋葬法改正による事実上の安楽死合法化、そして、2001年の刑法からの安楽死条項の削除というように、合法化への道をオランダは進んだ。今はベルギーやスイスも合法化されているが、何故オランダが世界で最初に合法化へと進み、かつそれが国民の大多数から支持されているのかを考えてみたい。
 アメリカで安楽死に対する拒絶反応が強いのは、キリスト教的な価値観もあるが、社会保障制度としての健康医療制度が整っていないことが大きな原因であると考えられる。オランダはその逆に、基本的に医療費は健康保険から支払われ、自己負担がないことが大きな影響を与えている。つまり、治療を受け続けるか、あるいは安楽死を選択するかが、経済的な要素から完全に自由に、自分の意思の問題として決定できるシステムがある。お金がないから安楽死しようというような要素が少しでもあれば、国民的支持を受けるのは難しいに違いない。
 そして、患者と医者の関係もまた日本とは大きく異なる。ヨーロッパは全体として「ホームドクター」制度をとっているが、オランダもその例外ではない。しかも、オランダの場合、ホームドクターを完全に個々人が選択できることが、医者への信頼感を高めている。イギリスのホームドクターは地域指定になっており、選択することができない。ところがオランダでは、住民登録すると、市役所から公的な機関の電話帳を渡され、そこにホームドクターの一覧が掲載されており、近所に聞くなり、また、実際に会うなりして、ホームドクターを選んで登録する。その際、家族毎に異なってもいいし、また、一人で複数のホームドクターに登録することも事実上可能である。そうした選んだ上で、信頼関係が出来上がれば、長い間ホームドクターに健康管理を任せることになり、ホームドクターは患者の健康に関しては隅々まで知ることになる。そうした信頼関係を基礎にホームドクターが安楽死を自宅で実行することが多いのである。ホームドクター制度のない日本では、こうした信頼関係を医者と患者の間に形成している例は、それほど多くはないだろう。
 もっとも、ホームドクター制度が医療システムとして必ずしも最良であるかどうかは、意見の分かれるところだろう。ホームドクター制度の欠点もあるし、また、日本のような制度の長所もある。親日派の写真家として有名だったエルンスケは、自分が癌であることが分かった日から家のいろいろなところにビデオカメラを設置して、自分が癌で次第に弱っていく姿を撮影していた。NHKで放映されたその番組の最初のところで、自分は前に体調がおかしいから、診察を受けたのに、既に発病していたはずの癌を見つけることができなかった。もっと早期発見していれば事態は違ったものになったかも知れないと、残念そうに述べていた。ホームドクターは、いかなる病気の場合も診察の入り口になり、あらゆる病気の可能性を念頭に起きながら、検査が必要であると判断した場合には専門医に紹介することになる。しかし、「全てを浅く」学んだホームドクターは、時折病名を見抜くことができないまま、悪化させてしまうことがある。しかもそのときには、ホームドクターの紹介状がなければ、専門医の診察をうけることは難しいから、本人すら気がつかないままの危険があるのだ。患者自身が疑いをもった場合、最初から専門医の診察を受けられる日本の方式の方が効果的な面もあるといえる。
 しかし、終末医療のように、基本的に治ることがなく、死を待つ場合には、ホームドクターのシステムは患者にとって大きな救いになるはずである。
 ホームドクターの欠点は、私の家族が体験もした。娘が学校で昼休みけがをして、救急事態として病院に運ばれ、何針か縫った。そして、数日後抜糸をするのは、ホームドクターの役割だった。ところがそのホームドクターはすべての糸を抜くことができず、小さな糸が放置された。年配だったのでよく見えなかったらしい。幸い近所に日本人の医師が留学できていたので、見てもらって、やはり抜糸が完全ではないことを理解し、再びホームドクターに向かったのである。このように、ホームドクターの医療技術は、もともとが治療行為を日常的に行っているわけではなく、むしろ検査が必要かどうかの診断が主であるために、技術は必ずしも高くないのである。
 さて、オランダの医療にはもうひとつ重要な特質がある。それは「患者中心の医療」である。難病の告知はとても難しいものだろうが、オランダのようなホームドクター制度をとっている場合には、もともと専門医を訪れる場合には、簡単ではない病気の可能性が前提であるから、告知は必要となるし、また、患者も覚悟をしている。そして、患者が自分の病気について、知る権利が完全に保証されている。もちろん、知らないで済ませることも自由である。そして、病気を知ったあと、治療法やそれぞれの治癒及び危険の可能性について説明を受け、どの治療法を受けるか、患者が選ぶ権利を認められているのである。これは、オランダ人の非常に強い「独立心」と深く関わりがあるように思われるが、安楽死について率直に患者と医師が話せるのは、こうした医療システムを背景にしているのである。
 

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
かわいい

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
オランダの社会と文化 日本と比較しながら (9) 教育と社会を考える/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる