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zoom RSS オランダの社会と文化 日本と比較しながら(31)

<<   作成日時 : 2006/07/31 22:04   >>

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 オランダの学校選択制度の説明をしてきたが、最近関東の都市部を中心として日本でも学校選択制度が導入される自治体が増えてきたので、オランダと日本の違いを整理しておこう。最も日本の場合は自治体によってシステムが異なるので安易な比較は慎むべきだろうが、オランダと同じようなやり方をしている自治体はないので、違いを認識することは大いに意味があるに違いない。
 第一にオランダでは通学区が存在せず、全員が必ず通学する学校を「選択」する必要があるが、日本では通学区を維持して、希望者は他の通学区の学校を選ぶこともできる方法をとっている。従って、通学区の学校に入学する場合には特に何もしなくてもよいし、その場合には無条件に入ることができる。日本では通学区の学校から変更した人数という数値がでるが、オランダでは「変更」は存在しない。定員のオーバーもオランダでは文字通り応募者から定員を引いた人数だが、日本の場合には、本来の学区の数を更に引いた数になる。私がある自治体の学校選択制度の審議に参加したときに、通学区を維持する必要があるという事情は、就学前検診の実施校が従来通学区の学校で行われていたことが大きかった。就学前検診のときにはまだ学校は決まっていないので、通学区がないと検診をするのに著しく不便だというわけだ。オランダには全員対象の就学前検診などはないし、そもそも健康診断を学校で行うことは入学直後2回程度で、子どもの健康管理は日本の学校がずっと進んでいる。
 第二に、オランダの学校選択は公立学校だけではなく私立学校も当然含んでいるが、日本の場合には公立学校だけが対象である。東京で学校選択が進んだのは、私立学校優位に対する公立学校側の反撃という意味が感じられるが、それでも私立学校が含まれないまま私立学校優位の大勢が続けば、経済力による教育格差の問題は解決されないだろう。その点オランダでは、前述したように私立学校も公立学校と全く平等に公費支出されるので、私立も含んだ学校選択が可能になっている。因みにオランダでも私立学校の優位はずっと続いており、教育熱心な家庭ほど私立の学校に入れるが、自由の選択の結果であり、家庭の経済力はまったく無関係だから、それが「公私の格差」とは考えられていない。
 第三に、日本では入学時の選択を保証しているが、気に入らなかった場合の転校までも「自由」の範囲にはしていないところが多い。しかし、オランダでは転校も自由である。選択する場合にきちんと調べたとしても、実際に入学してみれば友人関係や担任との相性など、期待に反することは少なくないだろう。転校の自由がないと選択の自由は不完全になるといえるだろう。
 第四に、学校統廃合との関係が異なる。私立学校も公立学校と平等に公費補助が出るのはもちろん基準を満たした場合であり、基準は生徒数である。自治体の人口によって最低限の生徒数が決まっている。近年オランダ政府はこの基準を引き上げる傾向にあり、明らかに財政的な効率性から小学校の大規模化を指向している。しかしオランダ人は小さい学校を好む傾向にあり、基準引き上げの結果統計上は1000校が減少したことになっているが、実際には分校化してそのまま残っている。校長が1000人減ったことは間違いないから財政削減にはなったろう。生徒を集めることができなくて基準を下回れば、一年経過の後に公費補助を打ち切られ事実上廃校となる。日本で学校選択制度に反対する人たちは、選択制度が学校統廃合に利用されると主張する。しかし合理的に考えれば、東京では団塊の世代がいた頃に比較して学齢児童の数は半減しているのだから、学校数を維持できないのは自明だろう。今までのようにあまりに少ないから廃校にするというのは、結局そこの地域の人たちを不利に追い込むことになる。どんなに子どもが減っても廃校は反対という人は別として、何らかの基準で廃校にせざるをえないと考えるのが、今の状況ではないだろうか。その場合「支持されない」と言う理由は特定の地域の人口が減ったというよりずっと合理的であると考えられる。問題は、学校選択制度を実施するためには児童数の2〜3割の定員の余裕が必要だから、どこまで学校の定員を確保するのか、そこまでどのような基準で廃校する学校を決めるのかということを、明瞭公正なやり方を確認していくことなのではないだろうか。
 第五に、日本の教職員は都道府県単位で採用され、7〜8年で移動するが、オランダでは学校が採用し移動がない。もちろん他の学校の募集に応募して採用されることはあるし、また、優秀な教師が引き抜かれることもあるが、通常はずっと同じ学校で教える。募集の際に学校の教育理念を明示し、それに共鳴する人が応募するので、学校の特色を出しやすい。それに対して、日本のように移動があると、学校の特色といっても中途半端なものになってしまうだろう。最も日本の移動システムについてオランダの小学校の校長に話したところ、その方がずっといいとうらやましがっていた。彼によるとずっと同じところにいるとどうしてもマンネリになりやすいのだそうだ。 
 さて最後第六に、オランダでは選択は文字通り「権利」だということだ。「市民の権利」は「国家の義務」が対応している。選択できるといっても、実際に複数の学校が通える範囲になければ意味がない。そこで自治体は通える範囲に複数の学校が存在するように配慮する義務を負っている。もし私立学校が1校しかないような地域があれば公立学校を設立する義務があるわけだ。国は法的な基準と努力目標のふたつの指標を定めて、実質的な選択をしやすいような学校配置を進めている。尤も財政的効率性から学校の規模拡大を指向する政策ももっているので単純ではないが。日本ではもともと通学区があるためこうした権利としての選択という発想はなく、もともと学校がたくさんある地域だけが選択制度を導入しているのが実情だろう。しかし、逆に言えば学校統廃合の結果バスで1時間もかかる学校に通わざるをえないというのは、教育権の保障とはいえない。通える範囲が学校があるように保障するのが国家の義務のはずだが、実際にそれが保障されていない地域が日本には少なくない。

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コメント(2件)

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この資料をつかわしてもらってもいいでしょうか??
TORA
2007/01/06 11:30
読んでいただいてありがとうございます。公開した文章ですから、どうぞご自由にご利用ください。
wakei
2007/01/06 21:12

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