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zoom RSS ガラスの自尊心

<<   作成日時 : 2009/06/30 17:50   >>

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 インターネットで非難されているNHKの「ジャパンデビュー アジアの一等国」の第一回台湾編を見た。丁寧にメモも取ってみた。コメントで紹介してもらった擁護のページもみた。擁護のページは、批判側の番組のいいかぜんさを詳細に批判したものである。
 NHKの番組は、見てすぐに、小熊英二氏の研究を基礎にしていると感じて、念のために小熊氏の著書『日本人の境界 沖縄・アイヌ・台湾・挑戦 植民地支配から復帰運動まで』(新曜社)をチェックしてみた。少なくとも台湾部分については、NHKの番組は小熊氏の研究をオブラートで包んだような印象である。この番組を反日的と批判している人の印象とは違い、やはりNHKだけあって、温和な番組になっているというべきだろう。
 小熊氏の著作は、本文だけでもA5版750ページの大著で、当時の政府関係の文書も読み込んだ実に優れた書である。NHKを批判している人たちは、最低限この著作をきちんと読むべきだろう。

 従軍慰安婦問題や南京問題等も同様であるが、歴史の事実を否定したがる人たちは、実に脆い自尊感情をもっているのだと思う。人間も組織も、また国家も、正の歴史だけではなく、負の遺産や歴史をもっている。そうした負の遺産は決して自尊感情を損なうものではない。むしろ、それとしっかりと向き合って、未来に活かすことを考えることこそ、尊敬に値することであり、自尊感情を強化こそすれ、弱めることにはならない。しかし、確かに世の中には、少しでも批判めいたことを言われると、自尊感情を著しく傷つけられたと感じ、怒りだす人たちがいる。しかし、そういう人たちは、例えば、自分の親しい人が、明らかに間違いを犯したことがあって、その間違いを一切認めず、自分は正しかったと言い張る場合と、その間違いを素直に認め、反省し、以後に活かそうと努力する人と、どちらを尊敬するのだろうか。間違いを認めない人に、ちゃんと向き合えというと、「お前は誰かに入れ知恵されているのか」とか、「俺を貶めようとしているのだろう」とか、意地をはっていたら、ますます尊敬の念が下がるのではないか。いまは強化ガラスがあるのだから、しっかり強化した自尊心をもつように望みたい。

 また彼らの特質は、自己中心性、自分の立場からのみ物事を理解するという特質であろう。その特質がよく現れている文章がある。『正論』7月号は「NHKよ、そんなに日本が憎いのか」と題する特集であるが、その中で、加地伸行氏が、NHKの放送で「人間博物館」として紹介した内容を批判している。

 「ところが、番組の「アジアの一等国」では、日本は日英博覧会(1,910年)に台湾先住民族のパイワン山地族を送り込み見せ物にしたと非難している。わざわざフランス人研究者(どれほどの者か知らないが)の口まで借りて、日本帝国主義批判をしている。その上で、博覧会出演写真をその子孫に見せて涙ぐませたりしている。
 何を言う。彼ら山地族は、日本統治以前に比べて遥かに多くの近代社会の恩恵を蒙っていたのである。彼らは彼らで、そのときの彼らのできることを表したのである。それが誇りを以ての民族衣装の着用である。にもかかわらず、それを見せ物と断じ、それが一等国の正体だったと言うのは、現代のヒューマニズムとやらから見ての<制作>に過ぎない。
 NHKに借問す。現代国家となった台湾における観光プログラムの中に、民族衣裳を着た山地族の踊りなのもるがあるが、それは<見せ物>でないとすれば、いったい何なのか。もし<見せ物>であるとすれば、NHKのヒューマニズム精神をもって、ただちに日本や台湾の観光業界に対して厳重抗議をすべきではないのか。傲岸な<一等国>意識を持ってはならないからである。」

 こういう文章である。(『正論』7月号p55)

 これこそ、自己中心性の典型的な文章というべきだろう。NHK批判の中に、この番組が中国の影響があるとする見解がたくさんあるし、これまでの流れからみて、この人たちは、中国に批判的だろう。では、中国のチベット政策はどうなのだろうか。中国は、チベットに対して、相当な資金を投入し、加地流に言えば、チベットは、「恩恵を蒙っている」といえる。しかし、チベット人の心をつかんではいない。そもそも「恩恵」などという言葉を使用することに、よく精神構造が現れているのだ。

 私は教育学が専門なのでいじめ問題をたくさん考えている。いじめには、「おいお前、皆の前で歌をうたえ」というのがある。そうすると、いじめられている子どもは、仕方ないから、皆の前で歌うわけだ。
 別の機会に、自らの意思で、同じ歌を歌ったとする。これは、「同じ行為」なのか。まさか、同じと考える人は、ほとんどいないだろう。同じ歌を歌っても、「歌わされる」ことと、「自らの意思で歌う」こととは、全く違うのだ。歌わされたとき、聞いている皆が喜べば喜ぶほど、また、自分がいかにも楽しそうに歌ったとしても、それだけ、心は傷ついているはずである。
 NHKが子孫を「涙ぐませ」たかどうかは、わからないが、番組では「悲しい」と言っていた。まさしく、悲しいことではないか。加地という人物は、この悲しさが全く理解できない人物であるというに過ぎない。常識的に、彼ら山地民族が、下記に紹介するように、まだまだ日本の苛烈な統治が続いており、多くの人が殺された記憶が残っている時期に、(その当時は、ある程度改善されていたとはいえ)自らの意思で、イギリスまで出かけて踊りを披露する、などということは、考えにくいことである。

 これから、時間をおいて、逐次内容的な検討をしていこうと思っているが、今回は、小熊氏が紹介している、台湾統治開始期に派遣された日本人統治者たちの結果を報告した、公的文書の内容をここでも紹介しておこう。

 1,895年4月に日清間の講和条約によって、台湾が日本に帰属することになり、日本軍が向かったところ、台湾では独立運動が起きていて、頑強に抵抗され、10月に平定宣言を出したが、日本側も4,500人の死者が生じ、その後も抵抗が続いたので、結局武力鎮圧は1,915年まで続いたという。平定後も混乱は続き、1,896年に提出された現地報告では以下のように書かれていたという。

 「帝国の該島領有は専ら国防上必要に出るとして、該島土民を排斥して日本人民を移植するを務むるか。或は帝国の該島領有は富源開発を主として、該島土民を綏撫して其資本労力を利用するに在るか。」明確ではなかったので、「方針の確定明示せられさるため、全般文官の十中一二を除く外、武官に於ては殆んと全体を挙けて、政府の方針は土民排斥に在りと膠信」している。

 そして、この排斥とは、島外に追い出すことを意味していたので、「厳酷武断を以て最良手段となし、一切政令施措苛虐暴横にして公道に背反し、土民をして怨嗟せしめ」るような措置が故意に取られた、という。

 更に次のような実情があったという。

 「暴横にして土民を虐遇し、故なくして打撃を加へ廉価にて物資を強買し、或は挑発と称して物資を掠奪し家屋祠廟を占領し、或は妄りに嫌疑を加へて土民を逮繋し殺戮を加えて」おり、憲兵や警察も「徴故のために土民を打撃鞭撻し靴を以て蹴撃し、或は妄りに嫌疑を加へて土民を逮捕拷問して殺戮を加えて」いるという。こうした行為が、意図的な侮辱として行われたことが指摘されている。

 小熊の記した注によれば、これは1,896年当時の首相であった松方正義に提出された現地からの報告書で、国会図書館に所蔵されている「台湾の実況」と題されたものであり、執筆者は不明であるという。しかし、日本政府が派遣した役人の執筆であると考えて間違いないだろう。こうした時期がある以上、その後以下に日本が、他の帝国主義国家の植民政策と異なる、「恩恵的」なことをしたとしても、台湾人が「すべて」親日的になどなるはずがあるまい。

 さて、私は最初の方に「負の遺産」という書き方をした。負の遺産というと、番組批判派の人たちは、「道義的」「謝罪が必要なこと」というように理解する傾向があるようだが、私が言っているのは、もう少し広い。道義的な問題ももちろん含まれるが、むしろ、「拙さ、未熟さ」故に、被害をもたらしたことの方が大きいし、問題である。
 台湾領有が決まったときに、どの程度の調査や準備をして、台湾に乗り込んだのか。もともと、台湾では、西欧の船や中国との間に、トラブルが発生しており、台湾が必ずしも中国に完全に服属しているわけではないことを承知していたからこそ、日本は台湾領有をめざしたわけだから、簡単に台湾住民が日本に従うなどと考えられるわけがない。周到な準備をしてから統治を始めれば、あるいは、双方に多大な犠牲者などでなかったかも知れない。統治のまずさによって、大きな犠牲が出たということは、明らかに負の遺産なのであり、そうした手法への反省、認識が歴史を学ぶ意味でもある。そういう意味では、NHKの番組は、十分に意味のあるものだろう。

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
さすがに教育専門家らしい発言ですな・・自己正当化だけはうまいね
BOO
2009/08/14 20:57

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