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zoom RSS エル・システマのドキュメンタリービデオを見て

<<   作成日時 : 2010/01/11 19:23   >>

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 新年早々エル・システマに関するドキュメンタリーをふたつ見た。今のところ、エル・システマ関連のドキュメンタリーはふたつらしいので、全部見たことになる。エル・システマはクラシック音楽のファンにはなじみのものだが、重要なことは社会福祉や教育領域での意味だろうと思う。しかし、教育学ではエル・システマについての研究は、私の知る限りほとんどないようだ。もっとも国際的に知られるようになったのは、天才若手指揮者ドゥダメル率いるシモン・ボリバリ・ユース・オーケストラが、ボンのベートーヴェン音楽祭やザルツブルグ音楽祭に招待されたり、世界各地を演奏旅行するようになってからなので、無理もない。
 エル・システマというのは1970年代半ばに、ベネズエラで、経済学者でアマチュア音楽家だったアベレウという人が始めた社会運動のようなもので、犯罪や非行が横行するベネズエラで、少年たちを保護し、人間的連帯を育てるためにオーケストラに参加させる運動である。当初は非常に困難だったようだが、不屈の精神で運動を押し進め、政府の高官を説得して財政援助を引き出し、各地に少年オケを作っていった。ドキュメンタリーでも何度も語られているが、日常的に銃による撃ち合いがあり、オケに行く途中の少年が撃たれてしまうということもあるようだ。そういう社会的状況の中で、非行や麻薬に巻き込まれないようにと願う親たちの共感も得て、住民の協力が進み、今では25万の少年・青年が参加しており、以前は頼みにいってやっとその地にオケを設立できたが、今では我が地に設立してほしいという要請がたくさんあって、なかなか応えきれないそうだ。
 ドキュメンタリーの中で、ゴミ集積場がある町にオケを設立している風景が紹介されていた。ゴミ集積場のある町は、捨てられたゴミの中から、売れる物をあさって、その日暮らしをしているようなところだ。当然治安は極端に悪い。だからこそ、住民たちが切実にオーケストラが作られることを望んでいるという。

 では、何故オーケストラ運動が、少年たちを非行や犯罪から守るのか。これは、今年一年間、学生と一緒に研究する課題にしているのだが、仮説的に考えていることは次のようなことだ。

 第一に、ベネズエラ社会では、少年たちがオーケストラに参加するためには、親を中心として住民の協力が必要だということ。危険な町だから、練習への往復は通常親たちが送り迎えするようだ。また、演奏会をするときには、家族一同聴衆となる。オーケストラの楽器は安くないので、寄付などが必要となる。このように、特にベネズエラ社会では、少年たちが真剣に打ち込む対象として、オーケストラは非常に水準の高い芸術であるだけではなく、その取り組みの中で、地域住民の連帯感が醸成される、逆にいえばそれなしには成功しないのである。

 第二に、音楽のもつ意味、特にオーケストラのもつ意味である。私自身アマチュアオケの団員であるが、オーケストラは、他のいかなる実践とも異なるある性質をもっていると普段感じている。そのひとつは「犯罪抑止効果」である。経験的な事実として、クラシック系の演奏家は、アマチュアもいれるとかなりの数いると思うが、犯罪を犯したというニュースをほとんど見かけない。酒井法子問題のときにも書いたが、クラシック音楽の演奏というのは、完全な自己コントロールを必要とするから、日常的に演奏をしていると、自然に自己コントロール力が向上すると考えられる。犯罪というのは、通常「自覚している悪い行為」を、抑制できずに犯してしまうことであるから、結局自己コントロール能力の高低が大きく影響する。
 さらに、クラシック音楽の世界では、「乗り越えることのできない存在」つまり、神のような存在がいるという点である。スポーツの世界では、「記録は破られるためにある」とよく言われ、スポーツ選手は過去の記録を破るために日夜努力しているのだろう。しかし、音楽では「破る」ために実践するわけではないし、また、モーツァルトやベートーヴェンを乗り越えられると思っている音楽家はいないだろう。日々近づこうと努力を積み重ねるが、しかし決して超えることのできない高みにある存在。これは謙虚な気持ちを培う。
 また、オーケストラというのは、非常にオープンであり、かつ共有性のあるものである。日本のアマチュアオケには、「大会」があるが、当日全く見知らぬ人びとが集まり、しかも、その場でオーケストラとしての演奏をするのである。スポーツでは世界的な選手と少年が一緒にプレーすることは、少なくとも遊びは別として、意味がないと思うが、オーケストラでは、ベルリン・フィルとユースオーケストラが一緒に演奏することは十分に可能であるし、また意味があるだろう。そして、オーケストラは当然100人近い人、あるいはそれ以上の人数が違うことをやりながら、ひとつのことを実践するのだから、人と人の協調性を養うには、非常に効果的である。そして、アブレウ氏がドキュメンタリーの中で語っていることだが、音楽は感動を与え、人間性を高める。感動を日々味わっている人は、犯罪を犯す可能性は非常に低いはずである。

 さて、シモン・ボリバル・ユース・オケなどのめざましい活躍が、音楽の世界では注目されているが、当初の目的である少年たちの非行・犯罪抑止効果については、私の知る限り、十分に研究されているとはいえないようだ。ただ、ベネズエラではこのエル・システマは国家的な活動になっているわけだが、担当は社会福祉省だそうだ。日本だったら文部科学省が担当しそうであるが、やはり、国家が援助している理由は、少年の保護育成にあるということで、それが少なくとも犯罪抑止効果を、社会として認知しているということを意味するのだろう。
 ただ、このようなことを日本で行うとしたら、どうなのだろう。これはまた別の機会に書いてみたい。

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