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<<   作成日時 : 2011/12/11 21:13   >>

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 以下の文章は、あるメディアの人へのメールであるが、多少まとまった文章として、教育に関する見解を書いているので、ここに転載する。

 初回は、東京都の学校選択制度についてです。
 これは、どのような立場にたつかによって、評価がかなり異なってくると思われます。
 実は私は、近年はずっとオランダ研究を中心にしているのですが、オランダ研究に入るきっかけが学校選択制度でした。1980年代までは、統一学校運動の研究ということで、ずっと研究をしてきて、博士論文を書いたわけですが、それはドイツ、フランス、イギリスの大戦間の学校制度改革を扱ったものです。一応戦前が済んだので、戦後にいこうと思っていたころ、日本では、いじめによく自殺が頻発していました。そして、いろいろ事例を見ると、自殺した子どもで、第二のターゲットだった子どもが少なくないことに気づきました。つまり、最初のターゲットが転校してしまったので、代わりにターゲットになった子どもです。第一のたーげっとは、学校に対処を求めたけれども、あまりやってくれないので、転校したというのがほとんどです。つまり、転校して逃げた子どもは死なずに済み、逃げなかった子どもが自殺するという悲劇をなっていることを考え、私は制度研究者なので、制度改革で、これを改善できないかと模索した結果、オランダの学校選択制度にいきあたったのです。つまり、私から見ると、学校を選べないことの弊害をなんとか打開できないかという意識で、学校選択を考えたわけですが、日本で学校選択を否定する人たちは、学校選択の弊害ばかり指摘して、学校を選べないことの弊害をほとんど省みないという特質があります。ここが、考えるポイントのひとつだと思うわけです。
 学校選択制度は、教育的には、制度のひとつ、つまり、制度とは「道具」だと思うので、使いようというところがあります。どんな便利な道具でも使い方を間違えれば、問題を生みます。鋭利な包丁は料理に不可欠ですが、凶器にもなるということと同じです。

 東京都を中心に導入された学校選択制度は、イギリスやアメリカの80年代から90年代にさかんになった、競争を強化するための改革の一環として導入されたものを模したものです。従って、学校間、教師間に競争を導入することによって、教育の質を高めようという政策であるわけで、その最大の目的が学力向上であったことは事実でしょう。そういう意味で、学校選択制度を導入した結果、学力はあがったのか、ということが検討される意味はあると思います。このことは、あとで検討することにします。

 しかし、私から見れば、学校選択制度は、競争による学力向上を目指すものではありません。そんなことは学校選択制度がもともともっている意味とは異なると思っています。従って、選択制度を導入したから、学力が向上するなどということは、もともと幻想であり、期待する方がおかしいと思っています。では、その目的は何かということですが、教育というのは、もともと多様な目的があり、将来の希望や地域、社会的環境等々によって、人によって求める教育は違う、だから、社会のなかにある学校は多様であることが望ましく、そして、多様ななかから自分にあう学校を選べるのがいいのだ、という考えに基づくものなのです。オランダの学校選択制度はまさしくそういうものであって、オランダには、実に多様な学校があります。
 この多様性を実現するために学校選択制度を行うことと、競争によって学力向上をめざすために行うこととは、実際の制度のあり方が全く異なっています。残念ながら、東京で行われているやり方は、多様性を許容するようになっていませんが、それでも、選択制度があることによって、多少の多様性の幅は大きくなっているように思います。

 実は私は、足立区が実施している学校選択制度を導入する際に、その協議会の座長を務めました。本来座長になるはずだった同僚のある教授が、選択制度にあまり賛成ではなかったのでしょうか、それを断り、私を推薦したという事情からそうなりました。私は学校選択制度を原則的に支持していますので、2年ほどかかりましたが、意見のとりまとめをして、実現のために努力しました。もちろん、日本でやるわけですから、オランダと同じようにできないどころか、かなり違うものになりました。それは仕方ないとして、最後に「学校選択制度は、親の要求に応えることであり、大切だが、しかし使い方を間違えると、大きな弊害を生む危険性もある」ということを特に強調しておきました。足立区に限らず、弊害が生じる可能性は少なからずあったからです。

 答申を出して、議会で承認されたあと、私はオランダに留学することになったので、その後は一切タッチすることがありませんでしたが、残念なことに、帰国後1、2年ほどたって、足立区で大きな問題が起きました。それは学力テストにおける不正です。記憶されているかと思います。東京都の実施する学力テストで、足立区は23区でいつも最低なので、なんとかしなければというあせりから、何人かの校長が、不正のある運営をしたわけです。このとき教育長であった人は、協議会での責任者で、「この協議会は、いままで一番楽しく、実りのあったものだ」と、答申直後にメールをくださった人で、テレビで謝罪をしている姿をみて、とても気の毒に思ったものです。選択制度批判者は、それみたことか、といろいろ書いたと思いますが、間接的には影響があるのでしょうが、学校選択制度があるから生じた問題というよりは、もっと常識的なところでの教育的勘違いから生じた問題だと思います。(学力の平均をあげたければ、優秀者に賞を与えるのではなく、低い学校に援助を与える方がずっと有効であるのに、多くの行政は逆のことをやっている。)

 では学校選択制度の影響をどのように考えるのかですが、いろいろと研究が出ていますので、たくさんあるかと思います。
 一番言われるのが、「学校間格差」が大きくなったという点です。
 この場合の学校間格差というのは、希望者が多い学校と、極めて少ない学校が固定されるようになったということです。この意味は、しかし、そんなに単純ではいなように思います。だから、学校選択制度はいかんということには必ずしもならないのではないでしょうか。
 学校選択を認めない議論は、標準を決めた学校設置によって、学校はすべて基本的に同じ条件にあるのだから、格差がなく、従って、学校を指定してよいのだという論理でした。しかし、実際には格差があったし、また、格差があると認識されていたからこそ、選択できるようになったときに、それが顕在化し、拡大したのだと思います。ところで、非常な人気校とそうでないところを分けるのは、実はそれほど学力水準によるものではなく、私の見る限り、設備に影響されているように見えます。新しく建設された設備のいい学校が人気があるという場合が少なくないわけです。それに対して、設備は大分古くなったけど、伝統校だというような学校が、人気があるというのは、皆無でいないにせよ、あまり聞きません。とすると、設備のいい学校に人気がでるのは、当たり前であり、「教育条件は同じ」というのが、実は真っ赤な嘘であったということになります。私は問題があるのに、それが隠蔽されているより、明るみに出る方が、長い目でみればいい結果を生むと思っていますので、この格差化は、実は課題解決のためには必要なプロセスであると考えています。

 では、格差化は本当に固定されているのか、という点ですが、非常に設備のいい学校が人気であるというような場合には、確かに固定されているようですが、そうでない場合には、けっこう人気に変動があるという話しを聞いています。教師が移動したり、あるいは親の傾向が変わったり、また、人気がないとされた学校がけっこう努力して、それが認められたりとか、変動要因はたくさんあるでしょうが、教師たちの努力を促進するという点では、いい効果をあげている面もある、ということは認められるのではないでしょうか。

 更に、私が最初に注目した「いじめ」の問題はどうかというと、これは詳細に調査したわけではありませんが、近年でもいじめによる自殺は時々ニュースで報じられますが、東京では非常に少ないか、ほとんどないという印象をうけています。以前は、中野富士見中の鹿川君事件等、東京でもありました。東京で少年の事件がないというわけではありませんが、いじめによる自殺は、確かに減っているとすれば、子どもたちのストレスを幾分かは緩和しているという効果は認められるように思うわけです。

 ずいぶん長くなりましたが、学校選択制度は、実は本質的に異なるいくつかの制度思想があり、ひとつの制度理念で見るべきではないということを理解していただければと思います。

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