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zoom RSS エル・システマ研究(3) 芸術と社会的有効性

<<   作成日時 : 2014/12/16 21:11   >>

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 エル・システマは、主に音楽関係者によって注目されているが、実際に、ベネズエラで大きな支持を受け、かつ政府によって財政的に支援されているのは、音楽的側面よりは、社会的側面である。その証拠に、政府の財政は、文化部門の予算ではなく、青少年対策の福祉予算であることでもわかる。エル・システマをつくり、育てた中心人物であるアブレウは、政治家でもあったために、どこから予算を獲得しやすいかということをじっくり考えた上で、社会的側面の充実のための支出要求をしてきたのである。もちろん、アブレウ自身の当初の目的は、ベネズエラ人によるオーケストラを確立することであったので、中心的な意識は音楽から始まったのであるが、次第に、「音楽による社会変革」という目的を、中心に近いものとしてうちだすことになった。
 しかし、本当に音楽による社会変革は可能なのだろうか。この点を考察するためには、様々な点からの評価が必要であろう。
 社会的側面からもっとも丁寧なフォローをしているのは、日本の山田真一氏であるように思われる。山田氏は、2冊のエル・システマ関連の著書をだしているが、主に、最初の
山田真一『エル・システマ』教育評論社をもとに検討しておこう。
 山田は序文で3点の問題を設定している。
(1)芸術は社会に本当に役にたつのか。
(2)エル・システマは反ネオ・リベラリズム、反グローバリズムの社会政策なのか。
(3)途上国で本物の芸術が可能か。
 まず第一の課題から検討していこう。
 「芸術は社会に本当に役に立つのか」という問いは、ふたつの側面がある。
 第一に、芸術が人々に生きる喜びの糧を与える有用な存在でありうるかという問いである。もちろん、多くの芸術は、人々を感動させるために創作されるのだし、事実優れた芸術は、多くの人に幸福感を与えてきたことは間違いない。なぜ可能なのかについては、本論で検討することにして、ここでの課題論としては、むしろ、「糧」を与えるような存在感があるかが問われるものだろう。芸術は昔から、特別な技術・技能をもった人達によって担われ、芸術を生み出したり、実践する者は、それによって生活の糧を得てきた。多くの人に高い感動をあたえるためには、優れた芸術であることが必要であるが、そうした芸術を生み出すためには、高度の才能・訓練が必要であり、また、そのことによって経済的生活が保障される必要がある。エル・システマの運動は、この「感動」と「糧」の関係を、システム化したものとしても注目に値するのである。
 第二に、芸術は社会的な問題を解決する手段になるかという問いである。芸術が、政治や社会活動に深く関わってきたことは、多くの歴史的事実によって示されている。戦争には、音楽が戦意を高揚させるために用いられてきた。軍楽隊が戦場に登場することも少なくない。政治的行事や儀式には、厳粛で荘厳な音楽が用いられる。しかし、エル・システマが、社会的に役に立つかというのは、そうした既存の儀式や行為を活性化させるというレベルを超えて、社会問題を解決する上で効果的に機能するのかというレベルでの課題である。アブレウの「音楽による社会変革」とはそうした意図であろう。
 カウフマンは、エル・システマはベネズエラの未来を変えたと評価している。失業・ドラッグ・暴力・破壊が蔓延する地域において、ヌクレオに行けば、一日安心して過ごすことができる、そのなかで子どもが健全に育つことは、未来を変えていることになるという評価である。すべての子どもたちが参加しているわけではないが、危険な地域で生活している困難な子どもを守ったことは事実であり、エル・システマに来なかった子どもが刑務所に入ったことも多いとカウフマンは評価する。(Michael Kaufmann "Das Bunder von Caracas")この点はあとで詳細に検討する。
 他方、エル・システマが活動を始めてから、既に40年近く経過しているのに、ベネズエラの治安は一向に改善されず、犯罪は国際的にトップを競うほどに多く、刑務所の暴動も近年ですら頻繁に起きている、エル・システマで育った子どもたちは既に社会の一線で活躍しているのだから、もっと社会が改善されていてもおかしくないはずだという批判もありうる。(2014.12.16)

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