オランダの社会と文化 日本と比較しながら(13) ドラッグ問題2

 では何故オランダはドラッグを合法化する政策をとったのだろうか。オランダの政策はあるとき一挙に決まるということはなく、多くの場合試行錯誤を経て、揺れ動きながら安定点を次第に見いだしていくような決まり方をすることが多い。ドラッグもおそらく例外ではないだろう。従って、理由もひとつではないが、様々な資料から整理してみよう。
 まず、麻薬は何故悪いのか。この答えは実は単純ではない。「常識」としては、体に悪い、だから法で禁止している、違法行為だから犯罪として取り締まるという説明ラインがある。しかし、これは最初の命題から異論が出されている。麻薬とされているものについて、大麻などはタバコよりも直接的な害も中毒性も低いと。もちろん、まったく無害とする見解はないようだが、タバコの方がより有害だという認識は優勢のようだ。現在タバコを違法にしている国はないと思われるが、煙草が合法なら、大麻は合法としてもよいというのが、「理論的」な帰結かも知れない。(もっとも、4月のニューズウィーク誌は「煙草が犯罪となる日」という特集をしていたから、煙草の非合法化はありえないわけではない。)実際、大麻の個人使用を事実上取り締まりから外した国は、オランダ、ベルギー、デンマーク、ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、ポルトガル、イギリス、スイスなど、ヨーロッパでは多数派になっている。
 しかし、オランダが合法化したあと、長年ヨーロッパ諸国はオランダを非難し続けたことは事実である。そして、オランダがドラッグを健康上の害が比較的低いソフトドラッグと害の大きなハードドラッグ(コカイン、覚醒剤等)を分け、前者の少量個人使用を事実上の合法化したことは、単なる「害」の問題ではなかった。決定的だったのは、「エイズ」である。
 1980年代になって、ヨーロッパでもエイズが流行したが、感染経路は同性愛だと言われたアメリカと異なって、多くがドラッグの注射針だったと言われた。そこで、エイズ対策として麻薬対策が取り組まれた面が強い。注射針や麻薬を無料で配布する麻薬バスが生まれたのはそのためである。実際に『週刊ポスト』の特集に解説では、エイズの蔓延に対抗する効果があったとされている。下の写真は、麻薬バスが毎日回収する注射針だ。麻薬中毒者であってもエイズは怖いから、エイズにならないために新しい注射針を支給されれば、それを使用し、まわしては使わないわけだ。

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 しかし、オランダのドラッグ対策を以上の点だけで見るのではまだ足りない。麻薬を違法にすると必ず犯罪組織、日本では暴力団が麻薬を取り扱うようになる。非合法にしても決して社会からなくならないことがらがある。なくならなければそれが密かに行われるが、合法で扱うことができない以上、合法性を問題にしない犯罪組織が専ら扱うことになる。アメリカのギャングが大きく育ったのは1930年代の禁酒法がきっかけの一つだったことはよく知られている。日本でも麻薬は暴力団の大きな資金源となっている。
 麻薬の合法化は二重の意味で犯罪を減少させる効果があると考えられている。ひとつは、犯罪組織が違法ドラッグを扱ううま味を失ってしまうことである。実際オランダの暴力的犯罪組織は勢力が小さいと言われている。日本では暴力団の動きは頻繁にニュースの対象になるが、オランダでは滅多にない。他のひとつは、違法である麻薬は高価になるから、中毒者は麻薬を手にいれるために、犯罪を犯しがちになるが、そうした犯罪が減少することである。このように、エイズの拡大を防ぎ、犯罪組織が大きくなるのを防ぎ、害の小さなソフトドラッグを管理した上で害の大きなハードドラッグについては厳しく取り締まる。こうしたオランダのやり方は、国家的に大きな批判を浴びながらも、批判を浴びせた当のヨーロッパ諸国がオランダ方式を取り入れ始めたわけだ。
 では、このオランダ方式は、安楽死合法化と同様に国民に広く支持されているのかといえば、実はそうではない。ここにこの問題の複雑さがあるように思われる。

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  • 麻薬を合法化した国

    Excerpt: 麻薬を合法化している国があるようです。 Weblog: つれづれなるままに racked: 2007-12-20 02:18