アメリカの有名大学の入試不正

 アメリカの大学入試で不正があり、訴追された人物が50名もおり、そこに有名な人物がいたことで、ワイドショーなどでも取り上げられている。ワイドショーでは、こんなことがあったというレベルであるが、アメリカの大学を考える上で、重要な転換をもたらすかも知れない、大きな事件であると思う。
 事件は、シンガー William Rick Singer というブローカーのような人物が、富豪からお金を集め、大学のスポーツ推薦を担当する人物やコーチに働きかけて、スポーツ選手でもない有名人の子どもを、スポーツ選手であるように見せかけて、推薦で進学させたということと、SATの試験に介入(替え玉受験と、点数改竄)したということ、更に、集めたお金は、チャリティを装った団体を作って、一旦その団体を通し、「寄付」という形をとって税金逃れをしていたという罪がある。特に話題を集めたのは、人気テレビドラマの“Desperate Housewives,”で主役級だったFelicity Huffmanと、“Full House.”のLori Loughlinが訴追者のなかに入っていたことである。
 シンガーは有罪であることを認めていると報道されている。かなり前からシンガーは不正工作をしていたようだが、もちろん、当事者たちから漏れたわけではなく、FBIが別件での秘密捜査をしているときに、偶然事実が把握されたのだという。しかし、その詳細は報道されていない。
 Loughlinは、娘がボート競技とは縁がなかったのに、ボートの練習写真をとって、スポーツ推薦を得た。そのための費用が50万ドル。Huffmanは、SATの点数を嵩上げさせたようだ。費用は15000ドル。他に、12歳以下のときに、207位が最高位だった娘を、全米50位と偽った例とか、サッカーなどやったことがないのに、サッカー選手と息子の写真を継ぎ接ぎしたとか、司法関係者が funny というような事例がたくさんあったらしい。’FBI accuses wealthy parents, celebrities ’ ”The Mercury News” 13 Mar 2019  筆者は Devlin Barrett and Matt Zapotosky かなり重なっている記事として ’ 50 charged in college bribery scam’ ”The Washington Post” 13 Mar 2019 筆者は同じ DEVLIN BARRETT AND MATT ZAPOTOSKY

 こうした明らかになった事実だけでは、この問題は理解しがたいところがある。日本の大学入試と、アメリカの大学入試、そして、大学そのものの置かれた位置がかなり異なるので、そこをまず説明しておこう。
大学そのものの位置
 「日本の大学は入学が難しく、卒業は易しいが、アメリカの大学は、入学は易しいが、卒業は難しい」と言われることがある。これは全くの的外れでもないが、今回話題になったアメリカの有名私立大学には、当てはまらない。アメリカの有名私立大学は、入学も卒業も難しいのである。日本人の有名人で、アメリカの大学で学んだという経歴が示されることがあるが、学んだことと、卒業したことの間には、大きな差異があり、卒業することは難しく、「学んだ」という日本人は、まず卒業していない。
 そして、アメリカの私立大学は、学費が日本とは比較にならないくらい高い。現在のハーバード大学は、およそ年間700万円程度かかると言われている。小室圭という人が留学したことで、大分話題になったので、アメリカの大学の学費の高さは、日本人にも広く知られるようになった。
 このような難しい入学条件をクリアして、難しい卒業までの勉学を修了した者には、社会は非常に高く評価し、完全にエリートとして扱う。日本の東大卒などよりも厚遇の度合いはずっと大きい。

入学選抜の相違
 日米の選抜方法は、全く違うといってよい。
 最大の相違は、日本では、選抜の中核を教員が担うが、アメリカでは、教員は選抜にはタッチすることはなく、選抜のためのアドミッション・オフィスという部局があり、そこに専門スタッフがいて、彼らが入学者を決める。今回の事件で、アメリカの大学人は、自分たちは被害者だといっているとワイドショーなどで紹介されているが、それは、こうした選抜主体の違いがあるからである。しかし、もちろん、アドミッション・オフィスは、大学の組織だから、被害者だと言い張るのは難しいはずであるが。
 第二に、日本の選抜は、学力オンリー、小論文や面接などの推薦入試、かなり自由な基準によるAO入試など、多様な形態があり、入学形態によって、学生の特質が違うとか、推薦入学の学生は学力に難点がある、いやない、などと、いろいろな議論がなされるところだが、これらは、ほとんど、教育的な観点ではなく、多様な募集形態によって学生を確保するための、経営的論理によるものである。それぞれが異なる試験で入学することになる。他方、アメリカの有名私立大学では、SAT(全国的な学力試験で、大学側が科目を指定し、基本的に競争試験ではなく、資格試験として扱われる。日本の共通一次試験やセンター試験のモデルになっている。)の成績、学校の成績、高校時代の活動に関する報告(自分で書く)、更に大学によっては面接を課すが、これらを総合した情報によって、合格者を決めていく。そして、日本ではほとんど無視される、アルバイト歴などが重視される点は、大きく異なる。
 第三に、選抜をする際の受験生であるが、日本では、受験大学に出かけていって試験を受けるのが当たり前になっているが、アメリカでは、受験生を一定の日時に特定の場所に集合させることはない。そもそも国際的な募集をかけるし、全米といっても、かなり広いわけだから、そんなことは無理なのである。上の書類を順次検討していって、高い評価の受験生から、順番に合格通知を出していくことになり、2カ月程度かかることも珍しくない。
 このような形態の違いがあるから、シンガーのようなブローカー的な人物が、選抜過程に介入することは、日本よりは、ずっと容易ではないかと思われる。

不正の形態
 とはいうものの、日本でも入試の不正は過去いくつもあるし、現在でも医学部の不正入試問題はまだまだ解決したとはいえない。最近は少なくなったが、以前は珍しくなかった。不正を防ぐために、多くの入学試験問題は、刑務所の印刷所で作られていた時期があった。囚人が、ゲラ刷りをラグビーのボールかなにかにいれて、塀の外に蹴りだしたというようなこともあったし、いまでも話題になるのは、ある有名女子大の受験で、父親が娘の替え玉をした例がある。当然、医学部の不正は以前から多かったわけである。
 しかし、大学には中規模でも数百名の教員がおり、ほぼ全員が問題作成から、受験監督、合格者決定というプロセスに関わるから、ブローカーが入り込んで、特定の人物を合格させるように謀るのは、かなり難しいだろう。もちろん、我々が気がつかないだけで、コンピューターに入力されている数値の改竄などは、絶対ないとはいえないが、わざわざ法を侵す危険に、大学の合格が値するかという点での、大学の価値低下が不正を減少させているかも知れない。
 逆にいえば、アメリカの有名大学は、法を侵しても、合格のためにお金を使う価値があるとみられているのだろう。

不正の背景にあるもの
 アメリカで明らかになった事態は、アメリカの有名大学が置かれた地位を抜きに考えられないだろう。先述したように、アメリカの私立有名大学は、入学も卒業も難しく、極めて高額な学費が必要であり、その代わり卒業すれば、エリートとして引く手あまたである。優秀で裕福な家庭の子どもなら、実に現実のユートピアのような存在である。優秀とは言い難く、貧しければ、全く縁がない存在であろう。裕福ではないが優秀である人たちと、裕福だが優秀ではない人たちが、微妙なことになる。
 裕福ではないが優秀であるとどうなるだろうか。もちろん、人によって多様だろうが、ワシントン・ポストがその問題を掘り下げている。
 3月14日のワシントン・ポストは「貧しい子どもたちは、お金が優秀さより勝っていることを知っている」という題の記事を掲載した。筆者は、Theresa Vargas。
 「アファーマティブ・アクションがあっても、貧しい黒人たちは大学が縁がないと知っている。貧困が根をおろしている地域で育ち、学校では銃に怯えている。裕福なら、家庭教師も受けられるし、テストの練習もできるが、貧しく、電気のない部屋や理解のない両親の下では、不可能だ。アファーマティブ・アクションで大学にいったとしても、大変な勉強をして、相当いい成績をとらなければ、懐疑的に見られる。貧しい黒人でシングルマザーだなどという言われるのだ。」
 貧しければ、よほど優秀でないと大学にはいけないし、そもそも黒人の貧しい家庭で育てられれば、優秀になることすら極めて難しいわけである。
 それに対して、富豪であれば、子どもの教育条件を整えることはずっと容易である。しかし、どうしても有名大学にいきたい、それには成績が伴わない、そういう人が、稀にではあろうが、今回のようなことに手を染めるのだろう。先述したように、アメリカの大学は、アドミッションオフィスという、かなり独立性の高い大学の組織で、選抜が行われるから、日本よりははるかに、賄賂を使っての不正工作がしやすいように思われる。 
 日本では、受験校を多くの者が偏差値を参考にして選択するが、当然アメリカには偏差値などは存在しない。世間の評判、どの大学協会に加盟しているか、教育条件や研究条件、奨学金、など様々な資料をもとに決めていくのだろうが、’How wealth pried open a ‘side door’ to top colleges’ ”Los Angeles Times” 14 Mar 2019 By Matt Hamilton and Harriet Ryanによると、「子どもたちが、どの大学にいけるか、判定してくれる仕組みがあり、それが今回の不正に活用されたという。お金があり、しかし、合格可能ラインに多少届かないというような親たちが、お金を払って子どもの合格を買うのだろう。

 アメリカで教育を行政のトップとして担っている人たちの意識は、徹底的に「優れた教育」を志向している。スプートニク・ショックでも、「危機に立つ国家」でも、要するにアメリカの教育の質を問題にしているので、それは、トップクラスの質に多く限定されている。ヘッドスタート計画とか、「落ちこぼしのない教育」という政策もあるが、エクセレント教育との間にある溝は、とうてい埋めがたいほどのものがある。そういう中で、お金がある以上、エクセレントの側から落ちるわけにはいかない、という焦りが起こした事態なのだろう。

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