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zoom RSS オランダの文化と社会 日本と比較しながら(8)

<<   作成日時 : 2006/06/04 19:50   >>

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 さて少し日本に目を転じてみよう。
 日本は決して安楽死に無縁だったわけではない。実はほとんど知られていないのだが、安楽死を容認する「条件」を最初に定式化した判決は、日本が最初だったといわれている。それは、1962年に出された「山内事件」の名古屋高裁判決である。
 事件は、長く病気で苦しんでおり、「苦しい、殺してほしい」と訴えていた父親を長男が農薬で殺害した事件である。尊属殺に問われたこの事件は、高裁判決で、安楽死が容認される場合の条件をあげた。
(1)病者が,現代医学の知識と技術からみて不治の病に冒され,しかもその死が目前に迫っていること。
(2)病者の苦痛が甚だしく,何人も真にこれを見るに忍びない程度のものなること。
(3)もっぱら,病者の死苦の緩和の目的でなされたこと。
(4)病者の意識が,なお明瞭であって意思を表明できる場合には本人の真摯な嘱託,または承諾のあること。
(5)医師の手によることを本則とし,これによりえない場合には,医師によりえないと首肯するに足る特別な事情があること。
(6)その方法が倫理的にも妥当なものとして認容しうるものなること。
 この判決を出した裁判官は、後に殺人には違いないが、動機において酌量する予知があり、何とか刑を軽くできないかと考えて、安楽死の要件を整理したと語っている。私自身、外国での反応を資料に則して確認はしていないが、この世界で初の判決は、世界中で驚きをもたらしたという。ポストマ事件の10年前に、ほぼ同じような内容の判決を出していたことは、確かに驚くべきであろう。判決は懲役1年執行猶予3年だった。
 そして20年以上たってから起きたのが、東海大安楽死事件である。1991年に起きた、多発性骨髄腫の末期患者に対して塩化カリウムを静脈内投与して死亡させたこの事件は、1995年の横浜地裁判決で、4つの要件として定式化された。
1)患者が耐え難い肉体的苦痛に苦しんでいること。
2)患者はその死期が迫っていること。
3)患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段
 が無いこと。
4)生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること。
 判決は懲役2年執行猶予2年であった。
 いずれも安楽死容認の要件をあげたが、判決そのものは有罪であった。これまで日本では、こうした容認要件に合致して「無罪」となった安楽死事件は存在しない。つまり、こうした要件はあくまでも「可能性」にすぎない。
 オランダのロッテルダム事件と山内事件は、同じ理由で有罪となっている。それは医師ではない人が実行していることである。しかし、オランダでは明確に医師のみが違法性を阻却されるが、山内判決では多少曖昧であり、東海大判決では、医師による実行は条件とされていない。(もっとも当然の前提であると考えられているのだろうが。)
 さて、オランダの事例と比較すると、いくつかの重要な相違がある。
 それはオランダでは、患者と担当医師(安楽死の実行者)が、長い関係をもっていることである。オランダの安楽死の多くは、ホームドクターによって自宅で実行される。ホームドクター制度は、あとで詳しく紹介するが、患者の健康をすべて管理・把握しており、安楽死するような年齢の患者は20年以上の関係をもっている場合も少なくない。しかし、東海大事件で実行した医師は、それまでの患者の主治医が転出したために、代わりに主治医になったばかりの若い医師であった。長く入院していたが、その若い医師がきてすぐに昏睡状態に陥り、苦しそうに見える患者の姿をみた家族が「楽にしてやってくれ」と強く頼むことに押され、2回ほど偽の投薬をしたが、それを見抜かれて責められた結果の塩化カリウムの投与だった。こごには長い間の医師と患者の信頼関係は、もともと生じ得ない状況だった。
 次に、オランダで無罪となっている場合には、患者からの安楽死実行の明確な意志が示されており、それが通常文書で残されていることである。しかし、東海大事件に限らず、日本での医師による安楽死では、そうした患者の医師が明確な形で証拠になっている例がない。2006年に発覚した富山の人口呼吸器を外した事件でも、医師は、患者にそのような文書を書くように要求するのは「忍びない」と考えて、患者の意志であることを証拠として残さなかったと言っている。ここに、オランダと日本の医師における「法意識」「患者と医師との関係の認識」の相違が浮き彫りになっているかも知れない。
 それを理解するために、オランダの医療システムについて若干説明をしておこう。(次回)

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