教育と社会を考える

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zoom RSS オランダの社会と文化 日本と比較しながら(38)

<<   作成日時 : 2006/08/07 22:04   >>

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放送システム

 教育制度と並んで代表的な柱社会と言われる放送をテレビを中心に考えてみよう。
 オランダのテレビ視聴は多くの家庭がケーブルテレビを契約してみている。最近は衛星を使う家庭も増えているようだ。日本のケーブルテレビと同様で、オランダの放送だけではなく外国の放送も入っており、パックや個別の番組で契約をして料金を支払う。アンテナを立ててみている家庭は皆無ではないがとても珍しい。日本でもケーブルテレビには地上波で見る番組がすべて入っているのが普通だ。私がオランダに滞在していた1992年に民放が初めて放映されるようになり、かなり話題になった。その後民放はかなり増えたし、地域の放送もあるので、テレビ放送の外見は日本とあまり変わらない。
 これから紹介するオランダのテレビシステムというのは、この総体のことではなく、こうしたパックの中に必ず入っているオランダの国営放送のことである。NHKとも民放とも全く違う運営をしていて、おそらくこのような運営方式が行われているのはオランダ以外にはないだろうと思われる。
 テレビの国営放送は3つのチャンネルがあり、ニュースや国政関連などの放送等の個別の主体では制作が困難であるが、必要性の高い基本的な番組を製作するNOSという放送協会があり、これがまたその他の番組の配分等を管理している。またNPSという協会が文化、教育、マイノリティ関連の番組制作にあたる。そして、これ以外は登録された団体(放送協会)が視聴者の支持の度合いによって番組枠と予算を獲得して番組制作をする仕組みになっている。団体は多くが宗教的あるいは社会的な立場をもった団体であることを表明しており、それが柱社会の現れであるとされているのである。
 教養的、情報的等のある程度の枠はあるようだが、基本的に内容に関しては上からの関与はないとされている。実際に日本だったらとても放送できそうにないような番組がいくつかあった。安楽死のところで紹介した安楽死の実行場面を放送するような番組を企画・制作することは、日本では難しいのではないだろうか。深夜などは俗悪番組と言えそうな番組もあった。そして、何よりも完全に宗教的な内容をもった番組がたくさんあることだ。番組を制作する放送協会にはキリスト教だけではなく、ほとんどの主要な世界宗教がそろっている。実は私もコーランの朗唱をオランダのイスラム系の番組で初めて視聴した。
 先に支持と書いたがこれは協会の会員になることであり、申し込み方は何通りかあるが、最も普通の形は協会が出すテレビ番組雑誌の定期購読者になることである。私もいくつかそうした雑誌を買ったが、必ず定期講読の申し込みはがきが綴じ込みになっている。学校の公費配分が基本的に生徒の数を基準に決められるのと同様に、会員の数で番組制作費用や時間枠の配分が決まっていく。
 こうしたシステムだから、宗教的な番組以外でも日本のテレビ番組とはやはり相当肌合いの違う感じがする。
 まずCMである。日本ではCMは番組提供とスポットCMの二種があるが、オランダではスポットCMのみで企業や団体が特定の番組の資金を提供して、その代償にCMを番組中に流すことはない。CM料はNOSが全体として管理し、配分資金の一部としている。こうした形態も影響しているのだろうか、オランダ独自に制作されるCMは時間も長く非常に面白い。実際に流れるCMの中には、多国籍企業のような大きな企業が各国共通の映像を使用して言葉だけ現地の言葉をアフレコでいれているものと、すべてオランダの制作者によるものと二通りあるが、断然面白いのはオランダ制作のものだ。国際CMコンクールでもオランダは高く評価されているようだ。
 日本のCMは「印象風」か「説明風」のどちらかが多いが、オランダのCMは多くが「ドラマ風」で小さな物語が展開され、しかも別のCMを挟んであとで「落ち」が続くようになっている。忘れた頃に続きがあるので印象が深まるのだ。「粋」とかシャレタ感じではなく、どちらかというと、駄洒落に近い感じだが笑えることは確かだ。
 流行もあるのだろうが、社会全般の好みというよりは「支持者がいるのだから、好きな用に作る」という感じの番組が少なくない。支持数はほぼ固定的だから、視聴率のような流動的な数字を気にする必要がないのだろう。鮮烈な記憶に残った番組がある。
 30分ほどのクイズ番組で、2人でペアの解答者と問題を出す女性の3人で番組が進む。まず女性が最初の問題を読み上げると、たいていは難しいので二人で相談しても即答はできないことがほとんどだ。すると解答者の後ろに百科事典がおいてあって、百科事典を何冊か取り出して調べ始めるのだ。たまに出題者の女性が話しかけたり、ごく稀にビデオが流されたりするが、たいていは黙々と調べるふたりをただ映しているだけだ。少したつと第二問を出す。一人は依然として調べているが、もう一人が解答しようとする。また調べだす。適当なところで最初の問題がわかると解答し、更に適当な時期に第三問という感じで、確か三問を正解したら「勝利」、わからない問題があると「負け」という感じになったと記憶する。とにかく、見ている方はなんの山も谷もない「調べる姿」を大部分は見させられるだけだ。92年にこの番組がある意味で気にいって、学生たちによく紹介したのだが、2002年に再び行ったときには、まさかこの番組は続いていないだろうと思いきや、まだやっていたのだ。ただし百科事典はパソコンに変わり、今度は黙々とインターネットに接続して検索する解答者を映していた。少し画面が明るくなり、ビデオが多少増えたが。この番組自体が支持されているのか、あるいは労働組合などが基盤となっているVARAという大きな放送協会の制作なので、VARA役員の好みで続いているだけなのか、私にはよくわからない。少なくとも日本のクイズ番組は莫大な費用をかけているせいもあり、抜群に面白い。しかし、日本のクイズ番組制作者が極めて限られた予算でも、面白いものができるか興味あるところだ。
 私が好きでよく見たのはVARAの制作するLager Huis という討論番組だ。英語に訳すと lower house でイギリス下院をそっくり模倣したスタジオに常連の討論者が並んで、毎回社会的に問題になっていることを激しく議論する。彼らは様々な運動団体で活躍している人たちだから議論には慣れているとしても、この番組のジュニア版があり、中等学校の生徒がまったく同じ場所で同じように議論するのだが、これがまた非常に激しいやりとりになる。毎回ゲストが登場し、ゲストと議論する場も設定される。ちょうど総選挙があり、政権党であるキリスト教同盟とは別の、よりキリスト教色の強い政党の党首がゲストになったのだが、 若者の男女交際をテーマにした議論で、むしろ中学生たちに押され気味で、言い訳に終始するような形になっていた。日本のNHKの中学生・高校生の参加番組があるが、議論の勢いがまるで違った。やはり伝統を打ち破る新しいシステムを切り開いてきた国の若者だと実感したものだ。なおこの写真でネクタイをしめているのがキリスト教同盟の党首、その一段左後ろが映画監督のゴッホで、この一年後にイスラムへの批判映画を制作したことで暗殺された。

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 もうひとつオランダらしい番組を紹介しよう。
 出産育児を紹介する番組で、毎回一組の出産する夫婦と過去出産場面を映した夫婦の子育てをドキュメント風に追いかけているものである。出産前の不安や夫の対応が描かれ、また育児を共同で行う姿が描かれていく。そして最後の方で無事出産するのだが、夫が立ち会い赤ちゃんが出てきて母親が抱きしめる。何組もの夫婦を長期的に追いかけているという点と、出産シーンが産室まで入り込んで撮影されている徹底さの点で、日本では難しい番組であると思う。
 オランダは売春が合法化され、オランダ観光に必ず「飾り窓」が紹介されていることから、性に乱れた社会であると受け取られがちであるが、実際には逆で、ヨーロッパの中で10代の婚外妊娠の最も少ない国で、若者の性の模範となっている国なのである。イギリスのタイムズの教育版に、オランダを見習おうという特集記事があったくらいである。それはおそらくこうした番組を家族で見て、率直に話し合う気風があるからだと言われている。オランダのオープンマインドが端的に現れた番組だろう。
 オランダのテレビは少ない予算で制作されているために、日本のようにふんだんにお金を使った番組に比較すると、確かに貧弱が感じがする。しかし、オランダのテレビ方式の最もすばらしい点は、様々な社会的な立場の人が、自分たちの立場から思う存分表現できることである。支持者さえいれば、お金がなくてできないということもない。社会的規範や法律に違反しない限り、表現の自由が保障されている。最近の日本では、有名人や政治家が自分に不利な放映にすぐにクレームをつけ、謝罪を求めたり提訴したりする。しかし、自分が十分な表現手段をもっている人は、その表現をつかって不利益を覆す努力をすべきだろう。それこそが民主主義のはずである。

 オランダの社会的特質である「柱社会」を、崩壊しつつあると言われながらまだ残存している教育と放送の分野で具体的に見てきた。柱社会はオランダ人の最も重視する倫理「寛容」の土台となる社会システムだった。他のヨーロッパ諸国では宗教革命以来血みどろの争いを国内で繰り広げ、およそ寛容とは言えない社会が形成されてきた。その極限がヒトラーの第三帝国だが、ナチへの最も強力な批判力をもった文書が、オランダで亡命ユダヤ人少女が書き残したというのは、寛容の強さを示すものだろう。1960年代以降の社会の変化の過程で時代に合わないものとして否定され、崩れてきたが、21世紀の現在、全く異なる文脈で再び柱社会は試練に遭遇している。移民の存在によって再び問題となってきたのである。

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